2016年12月18日

2016年熊本地震 集中治療部記録


1,震災前のICUスタッフの状況
 ICUスタッフは日々重症患者の診療・管理に従事し急性期医療の最前線にいる。またICU看護師は救急外来診療も兼任し、日頃より防災に関する認識が高い。例年、防災訓練が行われ、ICUスタッフは積極的に参加し、全スタッフによる協力体制を整備していた。しかし、今回のような地震に本当に遭遇すると誰も思っていなかった。
2,震災後のICUの状況(急性期から亜急性期)
 西病棟は免震構造であるため、今回の地震で、ICU内に目立った破損は認めなかった。手術室と西病棟6Fへの渡り廊下において、前震により壁と天井の一部が破損した。危険性があるため、一時的に渡り廊下は通行止めとされた(写真)。その後の本震での破損の悪化はなかった。
 震災時のICU入室患者状況は4/14 21:24の前震時に入室患者は7名(全11床)、人口呼吸管理は3名、持続的血液浄化管理は2名。4/16 01:25の本震時に入室患者は8名、人工呼吸管理は4名、持続的血液浄化管理は2名。
 各震災後ICU内の患者およびスタッフの安全は即座に確認できた(Safetyの確認)。設備や機器の横揺れ等による破損被害やエラーの発生はなく、人工呼吸や持続血液浄化機による治療を受けていた患者およびその周辺も全く異常をみとめなかった。免震構造の病院における重要性をあらためて認識することができた。また、熊本大学付属病院の災害時のマニュアルでは職員は震度6以上で自主出勤となっているが、複数の医師、看護師は自主出勤を行い、診療支援に協力したことが確認できた。本震翌日までにICUに関連する全職員の安否が確認できた。


震災本部からの新規重症患者の受け入れの可能性の打診(Command and Control)を受け、
新規患者のために可及的にベッドを確保する方針をたてた。入室患者主治医とICU医師(チーフ医師)とICU看護師(師長、副師長、チーフ看護師)との協議の上、病棟(第一選択)、HCU(第二選択)の上で退室可能かどうかの判断を常時行っていった。この際、重症患者をICUで受け入れ困難な場合を想定して、HCUにおいてもICU医師等による支援の下での重症患者(人工呼吸器装着等)受け入れを本部との協議の上行った(図1,2)。

 実際の受入れ状況としては、日赤病院等の病院から転院搬送(コンパート症候群、CPA後、敗血症等)や災害現場からの搬送(コンパート症候群、頭部重症外傷等)の入室を受け入れ、手術、検査に対応した。また、ICU満床に近い状況で、さらに院外からの新規重症患者受け入れの可能性があったため、急性期病態の中でトリアージ判断を加え、一部の患者をHCUへ移した。この際ICU医師が積極的にHCUも含めて診療を拡大し維持した。こういう診療体制が約1週間程度継続し、高度手術後の受け入れも含めた通常診療体制へと移行していった。このことは、大学病院は災害拠点病院の位置付けではないが、高度医療を社会に提供する役割を継続できたことであり、医療のBCP(事業維持継続BCP:Business Continuity Plan)が実施できたことを意味している。今後もICUにおける医療のBCPは継続していきたい。
3, 震災(急性期から亜急性期)におけるICU診療の評価
 今回の地震に対しての病院全体として種々の問題点が浮き彫りになり、今後さらなる対策の強化が行われている。その中でもICUの今回の実態を検証し以下の表に箇条書きしてみた。


例年の防災訓練が一部なりとも機能したことと免震構造で構造被害が極めて少なかったことが良かった点であった。
 一方で院内における総合的な連携不足な点も指摘されており、ロジスティックスを今後いかに我々の体制に全スタッフが現在で理解しやすいものにしていくことが課題である。この問題は院内だけではなく、他の医療機関、県、市、国などと連携がさらに重要であり、今回もこの問題点が改善した場合には、さらなる患者救命、他の医療機関の負担軽減につながったと思われる。

4, 総括
 今回、われわれは初めて震災を経験し多くの問題点が明らかとなりました。平時に防災意識をもち、さらに訓練にいかに反映させるかを検討していただければ幸いです。さいごに、病院職員すべての方々のご理解とご協力があってICU診療は維持できております。あらためて感謝申し上げます。
蒲原 英伸